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このページに記載された寄生虫の一部は、公益財団法人 目黒寄生虫館で種同定を行って頂いた。
また吸虫Ochetosoma kansenseの写真(※fig:10)は、日本野生動物医学会の許可を得た上で転載している。
※出典:巖城隆・佐田直也・長谷川英男・松尾加代子・中野隆文・古島拓哉 (2020)
日本国内のヘビ類の口腔に寄生する吸虫 Ochetosoma kansense(Plagiorchiida: Ochetosomatidae).
日本野生動物医学会誌, Vol.25, No.4, p.130.
目黒寄生虫館の巖城隆先生や日本野生動物医学会の皆様、ご協力頂いた方々に、この場を借りてお礼を申し上げる。
節足動物門のマダニ科キララマダニ属(Amblyomma)に属するマダニで、
宿主特異性が強く、現在確認されている宿主はエラブウミヘビ属のみである。
当然、人間を刺す被害報告は確認されていない。リケッチア等の病原体を有しているかも不明である。
日本国内での本種の分布について正確な調査報告は無いものの、
エラブウミヘビ属の分布から考えれば南西諸島に限られるものと思われる。
顎体部は棍棒状で体も比較的大きく、宿主特異性が強い事も相まって、他種との識別は難しくない。(fig.01、02)
日本には同属のカメキララマダニ(Amblyomma geoemydae)、
タカサゴキララマダニ(Amblyomma testudinarium)が生息しているが、
前者は主にカメ類、後者は哺乳類、鳥類、ウミヘビを除く蛇類などに寄生する。
マダニ類の種同定には、山内・高田(2015),「日本本土に産するマダニ科普通種の成虫の図説」や、
高野愛(2014),「マダニの遺伝学的な型別(同定)のために(初心者編)」が役立つ。
双方ともにインターネット上でダウンロード出来るので、興味があればご覧頂きたい。
アオマダラウミヘビのページでも述べたが、環境省レッドリスト2020では、
本種の宿主であるエラブウミヘビとヒロオウミヘビは絶滅危惧U類に指定されているものの、
その寄生虫であるウミヘビキララマダニは何故か指定を受けていない。
宿主が減少傾向にあるのならば本種は絶滅の危機に瀕していると言って良いが、DD(情報不足)の扱いさえ無い。
筆者がアオマダラウミヘビと本種をよく観察していた某所は、年を経るごとに漂着ゴミが堆積していき、
(因果関係は断定できないが)ゴミの増加に伴ってウミヘビ自体が見られなくなっていった。
無論、宿主の減少に伴って本種は全く観察出来なくなってしまった。
ウミヘビにしろマダニにしろ、定量的な調査が行われていないので、
今後は「気付いたら絶滅していた」なんてパターンもあり得るかもしれない。
fig.01:ウミヘビキララマダニ若虫
沖縄県西表島産
fig.02:ウミヘビキララマダニ成虫
沖縄県西表島産
節足動物門のマダニ科キララマダニ属(Amblyomma)に属する大型のマダニで、
成虫は哺乳類に寄生するが幼虫や若虫は宿主特異性が弱く、ヘビの血を吸う事がある。(fig.03、04)
人間を刺す被害報告も多々あり、日本国内では主に関東以南に分布する。
本種は顎体部が棍棒状で体が比較的大きいため、他種との識別はさほど難しくない。
日本には同属のカメキララマダニ(Amblyomma geoemydae)、
ウミヘビキララマダニ(Amblyomma nitidum)が生息しているが、
前者は主にカメ類、後者はエラブウミヘビ属に寄生する。
fig.03:アカマダラに寄生した若虫
長崎県対馬島産
fig.04:メス成虫
長崎県対馬島産
線形動物門の回虫科(Ascarididae)に属する線虫で、主にヘビの胃や腸等の消化管に寄生する。
皮下に寄生する事もあり、その場合は瘤状ないし線状の隆起が宿主の体表面に現れる。(fig.05、06)
(無論、ヘビに寄生する線虫は本種だけではないので、上記の症状だけで種同定は出来ない。)
肉眼的観察で分かるものではないが、ちゃんと口や食道を持つ動物であり、雌雄異体である。
全長は30mm〜70mm程度で、体色は白系統の個体が多いが、体が茶褐色を帯びる個体も僅かながら発生する。(fig.07〜09)
今のところ確認されている中間宿主はカエル類、トカゲ類、ヤモリ類等で、小型のヘビ類が待機宿主になる事もある様である。
分布はヨーロッパ、アジア、アフリカと非常に広く、その生態と生活環には未解明の部分が多い。
写真の宿主は車に轢かれて死亡したヒバカリであり、
皮下に移動する瘤(隆起)を見つけたので自宅へ持ち帰って洗面台で解剖し、本種を取り出した。
また撮影したHexametra quadricornisの標本は埼玉県で得られた標本と共に、目黒寄生虫館に収蔵されている。
(標本登録番号:MPM Coll. Nos.21383-21384)
fig.05:虫体による瘤状隆起
東京都産
fig.06:虫体による線状隆起
東京都産
fig.07:瘤(シスト)の内部
東京都産
fig.08:白色系の虫体
東京都産
fig.09:茶褐色の虫体
東京都産
動物界、扁形動物門、吸虫綱、斜睾吸虫目(Plagiorchiida)、ochetosomatidae科に属する吸虫である。
本属の主な寄生部位はヘビの口腔、食道、肺。(鳥羽・松尾 2011)
口腔内の虫体については目視観察が可能で、体長はおよそ2mm〜6mm。(fig.10)
体は半透明の淡桃色だが虫卵・生殖器官は黒く不透明である。(fig.11)
また本種は割と移動速度が素早く、ヘビの口を開けると食道の奥へ逃げ込もうとする。
光や振動に驚いての事なのか、あるいは湿度や温度の変化を察知しての事なのかは分からない。
巖城ら(2020)が行った遺伝子解析の結果や、日本と北米という分布の地理的な隔たり等から推察するに、
本種は北米からウシガエルに随伴する形で侵入した外来寄生虫と思われるが、
第一中間宿主と予想されるサカマキガイによる移入の可能性も否定できない。
国内における本種の中間宿主は調べられていないが、ヘビ類の感染状況を鑑みるに在来のカエル類が特に疑わしく、
中間宿主や終宿主、非好適宿主への病害性(≒侵略性)も不明であり、今後の調査が強く望まれる。
また飼育するヘビに野外採集した両棲類(生き餌)を与える場合、本種への感染リスクは否定できない。
コロンビアに棲息する同属のOchetosoma heterocoelium(オケトソーマ ヘテロコエリウム)は、
ヘビに対して口腔や食道の炎症、食道やヤコブソン器官の機械的閉塞を引き起こす等の病害性があり、
プラジカンテルの処方や物理的除去等の複合的な方法により治療が行われている。(Lenis et al. 2009)
また撮影したO.kansenseの標本は他府県で得られた標本と共に、目黒寄生虫館に収蔵されている。
(標本登録番号:MPM Coll. Nos.21642-21648)
※fig.10:シマヘビの寄生虫体
岡山県産
fig.11:O.kansenseの肉眼写真(生体)
岡山県産
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